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女性の尿もれと「磁気刺激療法」のお話 ――ガイドラインのアップデートと当院のフェミゾンDR導入について――

[2025.12.25]
【この記事のまとめ】最新ガイドラインでは、磁気刺激治療は「骨盤底筋体操」と同等、あるいはそれ以上の効果が期待できると報告されています。
女性の尿もれ(特に「くしゃみをしたとき」「走ったとき」などに起こる腹圧性尿失禁)は、
恥ずかしさから相談しづらく、「年齢のせいだから仕方ない」とあきらめてしまっている方も少なくありません。
2025年3月に「女性下部尿路症状ガイドライン」がアップデートされ、
腹圧性尿失禁や過活動膀胱に対する磁気刺激療法についても、いくつか新しい研究結果が整理されています。
今回は、難しい専門用語をできるだけ避けながら、
磁気刺激療法とは何か
どんな研究結果が出てきているのか
保険診療としてどういう位置づけなのか
当院で新たに導入した フェミゾンDR をどう考えているか
についてお話したいと思います。
 

1. そもそも「腹圧性尿失禁」とは?

女性の尿もれにはいくつか種類がありますが、代表的なのが次の2つです。
腹圧性尿失禁
くしゃみ・咳・笑ったとき
重い荷物を持ち上げたとき
など、お腹に力が入ったときに「ちょろっともれてしまう」タイプです。
出産後や加齢に伴う骨盤底筋の弱まりが大きく関わります。
過活動膀胱(OAB)に伴う尿失禁
「急に我慢できない尿意」が出て、トイレまで間に合わない
夜中に何度もトイレに起きてしまう
など、膀胱が勝手に縮んでしまうような状態で起こる尿失禁です。
今回のガイドラインの更新では、
腹圧性尿失禁と過活動膀胱のいずれに対しても、磁気刺激療法がどのように検討されているかが整理されています。
 

2. 磁気刺激療法とは?(何をしているのか)

磁気刺激療法は、簡単に言うと、
椅子のような装置に座り、衣服を着たまま、
「骨盤底筋(骨盤の底を支える筋肉)」に磁気の刺激を与えることで、
その筋肉を鍛えたり、膀胱のコントロールを助けたりする治療法
です。
電気刺激と違い、電極を体につける必要がない
痛みはほとんどなく、多くの方が「ビリビリというより、筋肉が勝手にピクピクする感じ」と表現されます
1回20~30分程度、週に数回のペースで数週間行うことが多い
といった特徴があります。
 

3. ガイドラインで紹介された最近の研究(かみ砕いた要約)

ガイドラインの追加掲載分では、2019年以降に報告された、
磁気刺激療法と他の治療(骨盤底筋体操など)を比較した研究がいくつか紹介されています。
細かい数字や論文名は省略しますが、要点だけをまとめると次のようになります。
3-1. 腹圧性尿失禁に対する磁気刺激療法
磁気刺激療法と、従来の骨盤底筋訓練(いわゆるケーゲル体操)を比較した研究では、
どちらも尿もれの程度や生活の質(QOL)が改善した
無治療のグループでは、明らかな改善は見られなかった
という結果でした。
別の研究では、
磁気刺激療法単独
骨盤底筋訓練+磁気刺激療法の併用
を比較し、併用療法のほうが、
尿もれの自覚症状
性生活に関するQOL
などの改善がより大きかったと報告されています。
また、骨盤底筋訓練だけのグループと、磁気刺激療法だけのグループを比べた研究では、
どちらも腟圧(骨盤底筋の力の指標)は上昇したものの
磁気刺激療法の方が腟圧の上昇がやや大きく、患者さんの満足度も高かった
という報告もあります。
まとめると:
腹圧性尿失禁に対して、
骨盤底筋訓練も
磁気刺激療法も
いずれも「やらない場合」と比べて改善が期待できる。
一部の研究では、「併用」や「磁気刺激の方がやや優位」とする結果も見られる。
というレベルのエビデンスが示されています。
 
3-2. 過活動膀胱に対する磁気刺激療法
膀胱訓練(トイレに行く間隔を少しずつ延ばしていくなど)のみ
vs
膀胱訓練+磁気刺激療法
を比べた研究では、併用療法のほうが、
尿失禁の回数
夜間のトイレ回数
尿もれパッドの交換枚数
QOLスコア
などがよりよく改善していました。
内服薬(ミラベグロン)単独 vs 内服薬+磁気刺激療法の研究では、
2~4週間という短期で見ても、併用療法のほうが尿失禁の改善が大きい
という結果が報告されています。
 

4. 日本での保険診療としての位置づけ

ガイドラインでは、日本における磁気刺激療法の保険適用についても触れています。
以前、日本では「難治性過活動膀胱」の女性に対して、磁気刺激療法が保険適用されていました。
週2回・1回25分を6週間行った市販後調査では、尿失禁回数、排尿回数、夜間排尿回数、尿意切迫感の回数が有意に減少
OABSS(過活動膀胱のスコア)も改善
効果は治療開始48週後(約1年)にも持続
医師の約6割が「有効」と評価し、約半数の患者さんが満足
という結果でした。
一方で、
機械が非常に大掛かりで高価であること
保険点数が低く、医療機関側の採算が合いにくいこと
などの理由から、実際に使っている施設は限られており、
最終的にメーカーが販売を中止したと記載されています。(院長も実物を見たことがありません)
 

5. 新しいタイプの磁気刺激装置と、エビデンスの現状

ガイドラインでは、最近ヨーロッパで登場している
Flat Magnetic Stimulation
High-power magnetotherapy
といった新しい磁気刺激装置にも触れています。
 
重要な点として、
これらの新しい装置は、
まだ尿失禁に対する大規模なRCT(ランダム化比較試験)などのエビデンスが十分ではないため、
保険診療として使用することはできない
と明記されています。
 
日本でも、一部の医療機関ではこれらに類似した装置を自費診療として導入している状況です。
 

6. 当院でのフェミゾンDRの位置づけについて

当院でも、女性の尿もれや骨盤底筋のケアの選択肢を増やす目的で、
新たに フェミゾンDR という磁気刺激装置を自費診療として導入しました。
フェミゾンDR は、上記ガイドラインで具体的に名前が挙がっている装置そのものではありませんが、
「衣服を着たまま座って、骨盤底筋に磁気刺激を与えることでトレーニングする」
という原理としては近いタイプの機器です。
現時点での当院の考え方を正直にお伝えすると、
ガイドラインや海外の文献から、
「磁気刺激療法は、骨盤底筋訓練と同じくらい、あるいはそれを補完する形で、
腹圧性尿失禁や過活動膀胱の症状改善に役立つ可能性がある」
ただし、日本国内でフェミゾンDRそのものに対する大規模な長期データが揃っているわけではない
という状況です。
 
そのため当院では、
まずは生活指導や骨盤底筋訓練(いわゆるケーゲル体操)など、保険診療でできる標準的な治療を基本にする
そのうえで、より積極的に骨盤底筋を鍛えたい方
通院してのトレーニングを希望される方
薬物療法や体操だけでは不十分な自覚がある方
などに対して、フェミゾンDR を自費診療のオプションのひとつとしてご提案する
という位置づけとしています。

7. 骨盤底筋と排尿の関係を、これから少しずつ解説していきます

女性の尿もれは、
妊娠・出産
加齢
便秘や肥満
長年の立ち仕事や重い物を持つ習慣
咳が続く病気(喘息・COPDなど)
といった、日常生活のさまざまな要因が積み重なって起こることが多いです。
 
一度弱った骨盤底筋は、放っておいて自然に元どおり、ということはあまり期待できませんが、
逆に言えば、
「正しい知識」と「続けられるトレーニングや治療」を組み合わせることで、
少しずつでも改善を目指せる余地がある
とも言えます。
 
今後も、この院長ブログでは、
骨盤底筋とはどんな筋肉なのか
自宅でできる骨盤底筋体操のポイント
腹圧性尿失禁と過活動膀胱の違い
フェミゾンDRを使った骨盤底筋トレーニングの流れ(当院の場合)
などについて、順番にお話ししていく予定です。
 
「尿もれで悩んでいるけれど、どこから相談してよいか分からない」
「手術までは考えていないが、できることがあるなら知りたい」
という方は、まずは一度ご相談ください。
ガイドラインにも基づきながら、お一人お一人に合った選択肢を一緒に考えていきます。
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※本記事は2025年3月時点のガイドライン記載や文献に基づき、院長が内容をかみ砕いて解説したものです。
実際の診療では、症状・検査結果・ご希望などを踏まえて治療方針を個別にご提案します。
 

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